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神様物語⑥ 小柄な老人

つづき。

「さての。そろそろ夜も更けてきたの・・・お前さんの嫁さんもそろそろ帰ってくる頃じゃ。最後に訊くが・・・・・お前さんは、”どういう生き方” がしたいのかの?」

青年は涙を堪えているのか、目を真っ赤にしてジッと足元の土の一点をみつめながら、声を押し殺してこう言いました。



「わかりません・・・・。」


老人は顔に微かな笑みをたたえながら、青年の次の言葉をジッと待ちます。


「どういう生き方がしたいのか・・・・・自分には思いつきません・・・・。

自分は、幼い頃から一つの事に没頭するのが好きな人間でした。それでも10代にはなりたい職業もあったし、20代には夢もあった。

気づけば、ありがたい嫁にありがたい家庭、身分不相応な職場。

・・・でも、帰りの電車の中では・・・1人の時間を過ごす時にはいつも考えるんです。自分の人生はこれで良いのか、もっともっと違った人生があったんじゃないのか・・・・って。気づけば歳だけを重ね、気づけばいろいろなものを手に入れ、手を離し・・・・・ひょっとして努力が足りなかったのか?あの時、ああしていればもっと幸せになっていたんじゃないかって・・・・・。」


「ふむふむ、してお前さんの言う”幸せ”とは一体、何を指すのかの??」


「・・・皆の期待に応えて、皆に喜んで貰って・・・・自分も幸せで、何の問題もなく日常が送れて。それが今は真反対でして、会社に行けば周りの皆の顔色が気になり、普段はニコニコしていざ仕事を協力してやろうとすると、みんな自分の都合だけ押しつけてくる。周りをみれば問題だらけ、毎日が不安でしょうがありません。」


「ふむふむ・・・・。」


「実家に帰れば、いつも変わらない笑顔で迎えて気を使ってくれる両親をみれば、何だかこれも申し訳なくて・・・・・。」


「そうか、お前さんも大変なんじゃの・・・・。」


「僕は昔から不器用ですから、、、自分でも認めてます。一生懸命、本を読んだりセミナーに参加してみたり・・・・器用な人や要領の良い人、人を傷つけても自分の欲を満たそうとする人を前にすると・・・・何て言えばよいのか、、、その、、、、、」


「そうじゃの。心も体も疲れてしもうて、自分から人には近づきたくなくなって来てるのかのぉ~・・・・。」


「はい、その通りです。今では唯一、心が落ちつく場所であったマイホームも嫁の気づかいが余計に苦しい時もあります。実は今日も、、、、家に帰れば1人なんですが・・・・・

・・・あ!そろそろ嫁が帰って来る時間です!!」


「そうか、そうか。・・・聞けば聞くほど、真っ当な人生、真っ当な生き方じゃの。

・・・・どうかの。嫁さんの事が気になるようじゃったら、少し時間を作って貰うとするが・・・・・・」


言い終わらない内に、青年の携帯が青い光を発してピロンと音を立てる。

慌てて画面をのぞき込むと、それは嫁さんからのLINEで、「実家に寄ってくるので、もう少し時間が掛かる。先に寝ておいてくれ」との内容でした。


「さてさて、これで良し。返信をしてやりなさい。」

呆気にとられる青年をよそに、老人はまたズズッと酒をすする。


「夜風が寒いゆえ、お前さんも酒を飲みなさい。さて、お前さんの状況はようわかった。今度は少し、わしの話を聴いてくれんかの。」


青年は言われるがまま、一合瓶の酒を半分ほど一気に飲み干し、瓶を持つ手を持ちかえる。老人に言われるまで、その寒さには気づきませんでした。


「さて。お前さんの”幸せ”じゃが・・・皆の期待に応えて、皆に喜んで貰って・・・・これは結果としてそうなれば誠に良い話じゃが、”目指すもの” としては少し違うの・・・・。」

「・・・・・・・・・。」

「言うては悪いが、お前さんの職場のなかにはお前さんの良さを、”まだ知らない人間” も多い。それはお前さんにも責任はあろう・・・・何故なら、まだお前さんは、”お前さんらしさ” や、”お前さんの良さ” をすべて発揮しておらぬ部分もあろう・・・・これは環境のせいには出来ぬことじゃよ。」


「・・・・・・・・。」


「どうじゃろう、イジワルなことを申すようじゃが、その中で皆の期待の中での、、、、”あやつは早よう会社を辞めてくれんか” と願う者があれば、お前さんは喜んで辞表を出せるかの?・・・・ははははっ、これはイジワルな質問じゃったかの。

そして、お前さんの会社の者らが、全員が全員、悪人という事ではない。

お前さんの ”会社を良くしたい” という願いは本物じゃろう。・・・・しかしの、そう思っても、願っても・・・・人それぞれ、”会社を良くしたい” という目的の場所は別々のことだってある。方向も違えば、手段も違う場合もある、わかるかの?

隣の村に戦いを挑むのか、和平をもって接するのか、1人でやるのか、数人の仲間を持つのか、己の村全体で進むのか・・・・・。

お前さんは皆が見渡せる席に着いておるが・・・・そうじゃの、ならば、斜め前の席に座っておる者の考えを聴いたことはあるかの?その者が子どもが何人いて、何歳と何歳で、どんな稽古を習わせて・・・・その者がどんなことが嫌いで、どんなことが好きで、どんな親の元で育って来たか、知っておるかの・・・・??」


青年は少し考えました。斜め前の席・・・そこには、経歴と要領の良さだけで今の地位まで昇りつめ、今では青年の足を引っ張るだけでしかない、嫌な上司の顔が思い浮かびました。


「・・・いえ、特には。そんな間柄ではないですし・・・・」


「そうか、そうか。そりゃ勿体ないの、はははははっ。その者は ”世渡り” という能力では少なくともお前さんより上じゃよ。

お前さんが持っていないものじゃ、どうじゃろ、今度酒でも誘って、、、、この者は ”奢り” には弱いでの・・・・・”あなたの卑屈さを勉強させて下さい” と頭を下げてみんんかの、まぁ、半分冗談じゃが・・・・はははははっ。酒に誘う時は、”卑屈さ” を ”きめ細やかな心くばり” という言葉に換えての、ははははははははっ!」


「・・・・・・・・・。」


「さて、さて、怒ったかの。まぁ、相手に勉強をさせて貰うて、何もお前さんにその者と同じことをやれ、と言うてる訳ではない。覚えて、お前さんのやり方で実行する・・・・これは100冊の本を読むより勉強になるのぉ。

お前さんの親の件を申しておったが。人間も30歳を過ぎれば、今度は親を ”守らねば” ならぬ歳じゃ。

・・・なに、”守る” というても24時間張り付いて、弓矢や病から守るものではない。

親はの、幾つになっても・・・あの世に行っても子を心配するものじゃ。お前さんがどんなに立派な社長になっても、例えこの国で一番エライ人間になっても、ずーっと心配する生き物じゃ。

お前さんはそれに甘え切りも出来んし、まだ期待に応えることも出来んで、今はまだ、親はほおっておいて良かろう。先にあの世に行かぬのが一番の親孝行、元気な姿を時々みせて、心からの笑顔をみせてやること・・・・それが一番じゃの。何かしてやりたい、期待に応えたいとの想いはようわかるが、、、、

それは一見、親孝行にもみえるが、まだまだお前さんは親に ”依存” しておる。お前さんなら、別の喜ばせ方がある筈じゃよ。

親はの、お前さんを生んで良かった、我慢して良かった、間違ってなかった、これなら死んでも悔いはないと ”安心” したいんじゃよ。

・・・・そして、こちらの嘘の笑顔もすぐに見抜く。

今はそうじゃの、、、、誕生日の日に贈り物でも、遠くであれば葉書の一枚でも送ればそれで満足する・・・・これも親というものじゃの。」


「はい。」



つづく。

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