- 2014-11-30 (日) 17:22
- 神様
つづき。
通された部屋はとても静かな部屋でした。一時期は栄華を誇ったであろう、その一族の長の部屋、、、、、五十猛様にとってはとても意外でした。無駄なものはなに一つない部屋。
焚き木の音と光に誘われ目を凝らすと、そこには藁を敷き詰めた寝床があって、火を絶やさぬようにと部屋の隅には常に薪がくべられ、炭は再利用されるためか、横にある穴より外にそのまま出せるようにとの工夫がみられました。戦うための青銅や鉄、美しき飾りや珍しい山の生き物の毛皮でしきつめてある父神スサノオ様の部屋とは大違い、、、、、が、ひとつだけ同じものが・・・・・それは壁に書かれた、おそらくこの平野を中心とした山々の地図。五十猛様もわからない記号がたくさん書いてあるのはおそらくみづかねが産出されていた場所をあらわすものでしょうか。
「・・・そばへ寄りなさい。」
はじめは気づかなかったのですが何もないと思われていた寝床から、静かでしたが魂の底の底から発せられるような、聴くものの心を揺さぶる声が・・・・・・五十猛様が目を移すと、そこには気が枯れきる枝のような老人が一人、横たわっておりました。
(この方が丹生の長か・・・・・・・)
その声と姿に我に返りひざまずく五十猛様。
「わしはもうすぐ黄泉の国へ旅立つ身・・・・・・・こんな姿で申し訳ないが、北の大王の息子殿よ、どうか近くにきて顔をみせてくれまいか。久しく前から目にもやがかかりだしての、もうあまり周りもようみえぬ・・・・・・」
その声と姿にはんして、その老人・・・・・丹生の長の声は抗いがたい力が働いておりました。五十猛様は静かに近づき、今度はその老人の横へとこれも静かに腰をかけました。
老人は静かに目だけを動かし、ジッと五十猛様の目をとらえて離しません。
「南の大王、丹生の長よ。わしは北の大王、スサノオの神の嫡男、名を射立乃神五十・・・・・・・・」
「・・・・・・よいよい。名乗りはなしじゃ。今日は大王の息子殿と、、、、、いや、お前さんと男と男としての話がしたいと思ってこの部屋に招きいれた。わしは今日、長年の戦にひとつ勝ったのやも知れぬ・・・・・・・・」
「・・・・戦・・・・・ですか?」
名乗り(自己紹介)を途中で止められた不思議さに嫌な感情がひとつも湧くことなく、五十猛様はおもわずその横たわる老人の声に耳を澄ませます。
「・・・・そうじゃ、戦じゃ。戦というてもわしら一族は武器をもつ手はない。わしの爺様の爺様の、その先の爺様から幾度と数えきれぬぐらいに土を掘っておったでな。しかし、体が動かず目は見えにくく耳は埋まってきた今でもわしは戦はやめておらぬ、、、、、今でもこうして、ここで戦っておる。」
「・・・・どなたと、、、、、でしょうか?」
「・・・・うむ、、、、わし自身との戦、わしの運命との戦いじゃの。”賭け”というてもよい。その賭けに今日はひとつ勝ちをおさめためでたい日じゃよ。」
五十猛様は先をうながすように黙って聞き入ります。
「・・・・・息子殿よ、わしの爺様の爺様の、その先の爺様からわしら一族は土を掘ってきた。この体すべてを使って、土と語らってきた。聞き伝えの話によればの、昔は何もない草木も生えぬ山があって、そのまわりには不思議と豊かな水を含んだ土があっての・・・・・・・・またその山の中に、今度は朱に染まった土があって・・・・・・・・・・・・・・・・」
丹生の長は静かに語り出しました。
つづく。
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