- 2013-03-21 (木) 1:04
- 神様
つづき。
ついに魔界の女王は、神々の最初の忠告「一滴の海の石」を手に入れてしまったのです!しかもそれは、ほとんど砕けちった小さな一滴の海の石の ”欠片” 。わずかに海の香りの残る、手離そうにも離せぬ小さなやさしさに満ちた光の石・・・・・・・・・手にした瞬間に、女王は生まれてはじめて ”情” という存在を知ってしまったのでした。
「美しい、、、、しかし、それよりも何じゃ、この心の底が渇望する想いは。今までのどんな品よりみすぼらしく貧相でぼんやりとした輝きなのに狂おしいほど私の心を掴んで離さぬ。このような小さな石は私の位には似合わぬ、しかし・・・・・・何なんじゃ、この悲しみは・・・・・・・・・・まるでいくら飲んでも渇きを癒せぬ水のように、手に強く握れば握るほど心が虚しく苛立ってくる・・・・・・・・ええぃ、一体なんなのじゃぁ!!!!」
その光の石は、女王の心を満たすにはあまりにもはかなく、女王が投げ捨てるにはあまりにも魅力的な石でした。
「神々様、ご報告がございます!魔界の女王が、龍宮界より落ちた豊玉様の情の石の欠片を手に入れたようです。」
「・・・・・そうか。あれほど注意したのに、、、、ついに”情”を知ってしまったか・・・・・。しかしの、あの者にはすでに”与えること”を教えてはおらぬ者。これからはあの石が女王の心をさらに複雑に苦しめてしまうじゃろう・・・・・・・・しかし今更じゃがあの女王に情というものを教えることは叶わぬ。教えてしまえば、この界そのもの、いやすべての界にまた差支えが出てしまうでの。誠にかわいそうな事をしてしもうたが、これも流れというものじゃろう。」
ほのかに輝く石を握っておりますと、女王は訳もわからず目から一滴一滴と何かが流れ落ちてくるのをその頬で感じました。しかし、これが何なのか、一体どういう影響を自分の心に与えているものなのかを知るよしもございません。
「苦しい、、、私は悲しいぞ。いや、あたたかいものなのか・・・・・・・・いや、これは私の心を満たしてはくれぬ。・・・・・・・・・わからぬ、わからぬが苦しい・・・・・・・・誰ぞ、もっともっとこの石を集めてまいれ!!・・・・・・いや、この石よりももっともっと輝く石を捜してくるのじゃ!!!この石にまさる石を持ってくるのじゃっ!」
与えることを知らない女王の目は青く炎を燃やし、その髪は怒りと悲しみのために四方八方に走り飛び、周りの異形の泥の人形たちも恐れをなすほどに口よりマグマのような息を漏らすのでした。
「大丈夫じゃ、私は何でも求めるものを手に入れられると約束された、この界の”女王”。いずれやこの石の秘密を暴いて、ありあまる光を手に入れてこの想いから逃れられるに違いない!その為にはもっと多くのものを集めねばならぬ。その為にはもっと多くの者に働いて貰わねばならぬ。皆のもの、私は女王ぞ!皆、願いを叶えて欲しければ、もっともっと多くのものを私のところへ持ってくるのじゃ!」
「ははっ!!」
その日以来、いつにも増して激しさと醜さをあわせもった界は、より一層の闇をもって今に至ります。
ほとんどの異形のものが皆、いろいろなものを捜し求めて女王がふと、一人になった時・・・・・静かに手の平に握り締めた小さな光の石をみつめるのでした。それはいくら求めても、握り締めても、決して女王とは一体にならない不思議な石。
そのぼんやりとした光に見入る時、決まって女王は自分の頬に熱いものが一筋流れ落ちるものを感じるのでした。
泥の人形(神様物語)ーおわりー
あとがき。
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コメント:3
- 尭 13-03-21 (木) 1:34
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こんばんは、村雲さん。
なんか虚しくて、哀しい御話でした。
女王が救われるのは何時なのでしょうか?
凄く凄く辛い気持ちになります。
あと楽になりたいという我欲の為に、がむしゃらに働く魔界の住人達が自分の姿に似ている様に感じられ、モヤモヤした気分になりました。
魔界が今の現実世界にソックリな印象を持ちました。 - ブーシュカ 13-03-21 (木) 2:14
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その会場の一席を占めたかったです。ご縁が結べるようになりましたら、そのときは、よろしくお願いします。
ズシンとくるお話で。涙脆くなるのは、自分の海が満ちているときなのかなとか、これまた、反射的に思います。性別の違いを思います。話し合いをする神様は、男性が多いのでしょうか。ものの見方、視点の置き所の妙味を思ったりします。 - 優智 13-03-22 (金) 6:12
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こんにちは、村雲様。
妙~に身に沁みわたる切ないお話です・・・(滝汗)
“訳もわからず目から一滴一滴と何かが流れ落ちてくる”なにか、久しぶりに、先日経験させていただきました。
小さなやさしさに満ちた光の石が、少しだけ、姿を見せたようです。
絢爛なる我欲は満たせど満たせど満たされず。
ひとつでも多くを与えられる人間となれるよう、これから精進いたします!