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神様物語④ 小柄な老人

  • 2020-01-24 (金) 16:59
  • 神様

つづく。

「男が抱えておった問題。これをすべて洗いざらい吐き出して貰った。ブツブツと、話は行ったり来たり、4・5日はかかったかの・・・・・

木の実を拾う山を増やせば、他の一族とぶつかり合う機会も多くなり、舟をこしらえ漁に出れば海に飲まれ帰って来ぬ者も増え、雨が降らねばすべてが渇き、雨が多ければ川が溢れ村を飲み込み、体が熱くなり鼻から水が垂れ息がしにくく、喉が赤くただれ苦しみ、みるからに力が衰えていったものがあれば・・・・その者は自ら動けぬゆえ、村のために皆で泣く泣く山に運んで・・・・・置き去りにすることもあったの。

狩りにでた男が怪我をして血を流して帰ってくれば、清き水で傷口を洗い流し、血が止まる草木で抑えると運が良ければ気枯れが防げるのを教えてやったのはわしじゃが・・・・・それでも日々の悩みは多かった。」


「話の腰を折るようで、申し訳ございません。ご老人はどうやってその知恵を手に入れられたのですか?」





「わしか?わしは旅というものが好きでの。見ての通り、体が人一倍小さかった故、若い時は野山を素早く走り、年老いてからは舟に多くの木の実を積んで川の上流から下流へ、海であれば近くの島までは潮にのって1晩2晩で着いた。

そこでのお節介が、人を助け、人から助けられ、旅の出発よりも重たい荷物で、帰りの方が大変じゃったのぉ、、、ははははっ。

一番のお土産は、その土地土地に伝わる ”知恵と知識” じゃの。これだけはどこに行っても喜ばれた。

不思議なものでの。お前さんは信じぬかも知れんが・・・・いや、今では普通にあるか・・・・・。ある場所にいけば、地面には龍神が走り、その龍神の吐く白い息で水の神が温められ、さて禊をしようとそこに浸かれば、何ともいえぬ体全体が温かく力がみなぎってきてのぉ・・・・」


「ひょっとして、それは・・・”温泉” ではないでしょうか・・・・」

「おぉ!そうじゃ!お前さん達が呼んでいる温泉じゃの。悪い龍神にあたれば、そのまま黄泉の国へ行くものや、長く浸ればフラフラと呪いにあてられる者も出てきての、、、、しかし、地の熱で温められた岩の上に病人を寝かせれば、不思議と傷の治りも早くての・・・・・。」


時々、出てくる神様の話、、、、しかし青年は、現実では理解しがたいが、心のどこかではこの老人、本当の神様なのだろうと思いはじめていた。


「ある神がの。気まぐれで木の又の洞に溜まった雨水の中へ、木の実を落とした。それがしばらく時が経っての、今で申す発酵じゃよ。なんとも良い香りがしてきての。通りすがったわしは、面白半分で・・・・なに、これがいずれ役に立つとわかっていたでの・・・・・村人の耳元でそっと、”飲んでみよ” とそそのかした。それがどうじゃ、あまりの旨さ・・・・とも申せぬの、いや、あれあれで酸っぱかったが・・・・・まぁ、わしにとれば今の酒は甘すぎて酒じゃないがの、、、、その村人は喜び勇んで、ついに村の中で造られるようになった訳じゃ。その時の感謝が今に続いて、今でも出来た酒を神社に奉納しとるじゃろう?

だから、今この世にある酒は、わしは飲んで良い決まりになっておる、わしの中での。・・・・はははははははっ。」


老人の手にはどこで拾ったのか、また満杯近くに満たされた一合瓶が握られていました。


「さて、その中で幸せも多かった。火を扱うものは、家の中でやれば燃え移り、息が詰まったり屋根が燃えて亡くなる者も多かったで、土器を焼く者は天気の良い日に外でやり出した。

その煙で、遠くのものが遠くのものに連絡する方法をみつけられた。

ある山の民は、動物を狩るたびに生肉の一部を山の神に捧げての。しばらくして山の神を祀ってある場所にお供えした生肉の色や形が変わっておることに気づいた。これは、山の神からの礼の品だ、いつでもどこでも食べられる生肉に変わったんだと教えてくれたの。

またある海の民はの。漁に出た服に白い粉が付いておったことに気づいた。舐めてみると目が飛びだすほど辛いが、暑さの続く日にこの粉を舐めると不思議と元気が出ることに気づいた。そしてこれを自分たちの手で造りだした。これは、塩じゃの。

平地の民は、よう畑を造り作物を育てておったが、ある外国の神よりある種を貰い、これを育てての・・・・その種を蒸したら、これがなんと旨いこと、旨いこと。皆の ”いのちの根” であると、頭とお尻の文字を繋げ ”いね” と呼んだ。

与えられた感謝はの、今でも忘れておりませんという証に、言葉にすれば1万年以上・・・・気が遠くなる歳月が過ぎた今でも神々に供えてある、なかなか律儀な民族での。そこはわしも嬉しく想うておるし、これを身が滅んでも次に残して今に繋げてくれているこの地の民らの真心を信じておるが、、、、、時々の・・・・・・。」


青年は黙って、老人の言葉を待ちました。


「・・・時々、、、そのぉ~・・・・なんと申すか、これが現代病の新しい流行病じゃろうか・・・・・なんでも、”神を祀りたいが、世話が出来ぬ” ”お供えをしないと失礼にあたるのか?” ”一度祀れば、徹する時が恐ろしい” などと、わしらが返事に困る考えが多くての・・・・・。

それで真剣に謝られても、わしも何と申してよいのやら・・・・

古代の民が感謝の証と、供えてくれておるもの。

元来、わしらが求めたものではないのじゃが、その世話が出来ぬゆえ、顔を合わせられませんと言われれば・・・・複雑と申すか、、、、これだけ神と人の間に、互いに距離が空いたと感じるのは寂しいことじゃのぉ・・・・・」


青年は分かる気がした。どちらの想いも。

現に、青年の会社に拵えられた立派な神棚。

事業で成功した義父がその権威を社内で示すかのように立派な設えにはなっているが、果たして誰がいつ手を合わせているのかと言われれば・・・・・

・・・・実のところ、単なる飾りにしか過ぎず、かと言って外せば、どこか心元ない、神にもすがりたくなる気持ちもあって・・・・

・・・・・榊だけは毎月、立派なものを事務の若い子が換えてくれてはいるが、青年自身、この神棚と向き合うのはいろいろな意味で心やましい気持ちになってしまう・・・・結局は、「逃げ」でした。

それをわかっているが故に、自分が嫌になって直視できない・・・神様とは、祀られている神棚とは・・・・今の青年にとっては「自分の弱さ」のシンボルだったのです。


「すまんの、また話がそれてしもうた。大方の男の問題は聞いたが、、、、わしにも一つだけ、分からぬことがあった。」


「・・・・・・。」


「そう、それはの。その男が、”どんな生き方がしたいのか” ・・・その一点だけじゃの。」


静かに見据えられた老人のその目に、まさに自分に問われたと感じた青年は思わず目を伏せてしまいました。


つづく。

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