- 2012-03-02 (金) 21:58
- 神様
つづき。
「それでは今より、この御魂の行く末を皆で決めたいと思うがよろしいか。」
胸より勾玉を下げた神が静かに口を開くと、やさしいまなざしを”すず”に似た若い娘に向けた。
「さて怖がる事はない。今日はお主の、次なる修行の場へ行かせる”場所”を見つけようと皆、お主に縁のある神々がここに集おておる。生前の名前は覚えておるかな?」
若い娘はどこか緊張しているのか、小さく声を発する。
「はい、”すず”と名を付けて貰いました。」
「おぉ、良い名じゃの。すずよ、少しお主の生前の話を聞かせてはくれぬか?」
「・・・・・・・はい。」
すずと呼ばれていた御魂は静かに話しだしました。
気づけば真っ暗のお腹の中にいた事。新しい世界に胸をときめかせながらも、父や母となる人達の声を聴きながら、どんな両親なんだろうと想像するのが楽しみで仕方なかった事。時々、両親は大喧嘩をして、おそらく自分が原因だろうと何だか胸が苦しくなって、お腹の中でそっと涙を流したこと。
急に何度も、強い刺激があって・・・・・母となる人の体の悲鳴が伝わり・・・・・・押し出されるように、何が何だかわからず気づいた時には、体のあちこちが大きく伸びようとする感覚。それが外の世界とどこかで理解できた時、あまりの喜びと同時に味わった恐怖にどうしたら良いのか解らず、必死に空気を体の中に入れながら周りの皆に声を出して訴えるしか出来なかったこと。それとは反対に、まだ目の見えぬ中で周りからは数人の人間のケタケタと発する音が恐ろしかったこと・・・・・・・早く何かにすがりたかったこと・・・・・・・・・・・・・・・・・
喋っていると、すずと呼ばれていた娘も不思議と次から次へと、ぼんやりとした霧がきれいに晴れていくようにその時の感覚・感情・周りの状況から景色まで、今までは思い出しもしなかった大きな小さな出来事が、次から次へと口に出てくる。すずは、自分がすずでいた事を一つ一つ確認するかの様に必死に声を出し、また段々と懐かしく想い・・・・・・喜びが波のように心に響いて、ただ思い出すまま楽しさのあまり夢中で喋っておりました。
「今、はっきりと思い出しました!わたしの父は、あっちに行ったりこっちに行ったりとほとんど家には居らず、もっとわたしが小さい時の頃、思い出せるのはいつもしてたしかめっ面と、肩にのせてくれた時の風景の高さと、足から伝わる父のぬくもりです。母はいつも小言を言っては、そんな父をなじったり周りに怨み事を言ってはそれでも必死に体を動かしておりました。」
「・・・・そうか、そうか。・・・・すずと呼ばれておった御魂よ、それで主の”役目”はどの様なもので、それは果たすことは出来られたかの?」
すずと呼ばれた魂は、しばらく足元を見つめて考え込んだと思いきや、突然顔を挙げました。
「・・・・・わたしの役目は・・・・・・・・そう、その二人に対して、本当の他人同士の心の繋がり・・・・・何よりも、一緒に縁あって結ばれた夫婦の魂が互いに傷つきながら、ため息つきながらも一つとなっていく事を知らせる為です!!」
「ほぉ・・・・・お主は賢い御魂じゃのぉ・・・・・・・・・・・。」
はじめてニッコリと微笑む、勾玉を胸に連ねた神。
並んだ隣に座る、烏帽子を被った神はいつのまにか手に巻き物を広げ、目は巻き物より離さず、すずの話に耳を傾け何度も小さくうなずいておりました。
「人間の年にして5つの時だったと思います。わたしは不思議と、そろそろこの肉体とも別れる時だと無意識に感じて・・・・・その、今でははっきりと解るんですが、その時は無意識のままに、、、、あぁ、何だか上手に話せませんが、とにかく最後にお世話になった産土様にご挨拶に伺わせていただこうと雨の中を走っている最中、わたしの未熟な肉体と意識は危険を考えず足をすべらせ、こうしてこちらに戻ってくる事となりました。」
「よしよし、よう思い出したの。どうじゃ、お主は無事に役目を果たせたかの?」
「はい、後悔はしておりません。お蔭様で、わたしの父母となって下さいました方々は、いつもわたしの事を今でも想って下さっております。父は年に一度は二人で力を合わせてわたしの為にまんじゅうや団子を作ってくれております。それは甘くて美味しい、わたしにとっては世界中で一番・・・・・・・たとえようのない、かけがえのない味なんです。」
(すず・・・・すず・・・・・すず・・・・・・・・すず・・・・・・・・・・)
黙って聞いておりました人間の男の顔には、こんなにまだ残っていたのかと思うほどとどめなく涙が流れ、何度も何度も心の中で我が子の名を呼びながら、嬉しそうに話す娘の後ろ姿をはばたきもせず見つめておりました。
「ほぉ~わしらの界にあるものより、旨い物が存在するとはのぉ~・・・・・そういえば、わしの飲んでおる酒もわしの為にと、時々わしが降るボロ社の隣に住む婆さんがいつも毎朝、お猪口一杯供えてくれておってのぉ~こっそりと貯めた米で作った、それはそれは薄い薄い水の様な酒なんじゃがぁ、真心がこもった酒がわしにとっては、美味で美味でのぉ・・・・・・はははは、、、、、」
今まで黙って話を聞いていた胸をはだけた神は、そう口をはさみ何度もヒョウタンを口に運びながら愉快そうに声を出します。
「これ山の神、はしたない。今は御神の話ではなかろう。・・・・・それを申すのであれば、山の麓を流れる川で毎朝洗濯されておられます女人はですね・・・・・それはそれは、水を使う度にわたくしの名を呼び、お蔭様でと毎日手を合わせくれて・・・・・・・・・・」
隣に座った美しい着物を来た女の神は、山の神の話をさえぎったかと思うとどうやら自分の方がおしゃべりが好きらしい・・・・(笑)
「これこれ、二柱の神とも静かにせんか。忙しい所、多くの神に集うて貰っておる。・・・・・・さて、この御魂の産土であった菅公殿。して、次なるこの御魂の働きはどこにあろうか?」
「はい。次は、二つ離れた土地の・・・・・・・・・・ここも私の管轄でございますが、今、戦をしておる地にございまして男として生まれ変わり上手くこの御魂が磨かれれば、この戦のある村の指導者となり多くの命を助けることができましょう。・・・・・・・・また、別の神に託すことにはなりますが、北の大地に行けば裕福な家庭に生まれ、そこでの役割は真面目にコツコツと働き、その土地を守り続けること。・・・・・・・・あと一つは、、、、、、、、」
「・・・・・神々様、お願いがございますっ!!!!!!」
突然大きな声を出したのは、今まで静かに聴いていた当の本人、すずの御魂でした。
つづく。
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コメント:8
- もっち 12-03-02 (金) 22:18
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管理人様 こんばんは。
頭の良い知恵のある山田のお爺さまのお話を
楽しみに読ませていただいております(笑)
続きを首を長くして待ってますよ~♪ - 己亥ママ 12-03-03 (土) 0:02
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うーん、菅公殿まで…
あっ、こんばんは!
村雲さん。
そうか…どうなるの?
楽しんでいます。うーん、やっぱりそうか…
最後は京都…?
うーん~(笑) - ゆきんこ 12-03-03 (土) 1:30
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短編小説は辛い((泣)
ではまた明日・・・かな? - 尭 12-03-03 (土) 1:51
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今晩は、村雲さん。
この回の話は、死後の審判(?)なんでしょうか?
それにしても、なんか温かくなる話し合いですね。
閻魔様の審判や、最後の審判の様に、厳格な審判出はなく、ほんわかした感じがします。
でも、私は『すず』さんみたいに自分の事をはっきりと伝える事ができないだろうなぁ(笑) - バシリスク 12-03-03 (土) 18:21
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村雲さん
こんばんは。
物語ありがとうございます。
流石、話が上手いですね。
本を買って読んだ時に思った事ですが、
こういった話に挿し絵を入れて、
売られたら良いのではないか、と思ってしまいます。
(イザナギ、イザナミの話を読んだ時に思った事です。)
村雲さんの書いた神道に関する物語を読みはじめると
何故か情景が浮かび、ドラマが想像力で展開されている。
やけ酒博打男が観るなか、進む展開、人として有り難く受け取る思い、類する事を思いだし、思わず涙が…。
続き、楽しみにしてます。 - PAUL 12-03-04 (日) 14:33
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私ももうすぐ五歳になる娘がいます。
(もうすぐ二歳の息子も)
五歳児がこんな凄い事言える訳ないと
思いつつも、ウルっときてしまいました。
そうそう、川の女神様は、瀬織津姫様
ですか?
私も祓戸の神様は大好きです(^_^) - 摩訶不思議 12-03-04 (日) 18:14
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己亥ママ、私は京都じゃなくてまた同じ親の元に戻るのかと思いましたが。。。。
村雲さん初めまして。私は摩訶不思議が好きで非常に疑り深い人間です。ひょんなことからこのブログに辿り着き時々こっそり覗き見しています。山田の爺さんのはなし1。が面白くて読み始めたらなんと”つづき”と出た。1。を読んだのはいつだったのか、確か二日前だと思ったがアルツハイマーで憶えていない。今覗いたら4迄はなしが出来上がっていた。えっ、まだつづくの〜。 - 己亥ママ 12-03-04 (日) 23:21
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摩訶不思議さん。こんばんは~(笑)
あなたの言う通りだったね~(爆) 私は摩訶不思議ばかりの人生なので、摩訶不思議は…微妙ですが(笑) 村雲さんのお話は大好き!楽しみましょう!